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「意思決定支援ガイドライン」改訂案のポイントと現場対応(2026/9/5)

~「本人の最善の利益」から「意思と選好に基づく最善の解釈」へ~

障害福祉サービス等の提供における意思決定支援の重要性は、令和6年度の報酬改定で指定基準に明記されるなど、年々高まっています。その中核をなす「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」が、平成29年の初版策定から9年以上を経て、本格的に見直されることとなりました。

今回の第2版(案)では、国際基準や権利擁護の最新動向を踏まえた大幅な再整理が行われています。本コラムでは、改訂の背景と重要なポイントを整理し、支援現場で求められる実践の方向性を解説します。

1. ガイドライン改訂の背景と最大の変更点

今回の改訂には、大きく3つの背景があります。

  1. 国連障害者権利委員会からの指摘(令和4年10月)

    従来の「本人の最善の利益(the best interest of a person)」という表現に対し、支援者側の判断による代行決定や管理的な支援につながるおそれがあるとして懸念が示されました。

  2. 成年後見制度の見直し動向

    第2期成年後見制度利用促進基本計画の中間検証報告書(令和7年3月)等を受け、障害者権利条約の趣旨に合わせた見直しが求められました。

  3. 他分野ガイドラインとの整合

    認知症や医療、後見事務などの他分野で意思決定支援ガイドラインが整備されたことを受け、構造の再整理が行われました。

「最善の利益」の削除と「最善の解釈」への移行

最大の見直し点は、「本人の最善の利益」という記述が完全に削除されたことです。今後は、国連が提案する「意思と選好に基づく最善の解釈」という表現に基づき、意思決定支援が再定義されます。

支援者が「この人にとって何が一番良いか(最善の利益)」を代わって決めるのではなく、「本人は何を望み、何を好んでいるのか(意思と選好)」を様々な情報から丁寧に読み解き、解釈していく姿勢が求められます。

2. 第2版(案)で押さえるべき重要概念

(1)明確に示された「理念・信条」

意思決定の主体はあくまで「本人」です。改訂案では、当事者目線のメッセージとして以下のような信条がまとめられています。

  • 「誰でも意思があります。わたしにも意思があります」

  • 「わたしのことについて話し合う場には必ずわたしが参加できるようにしてください」

  • 「『いいえ』といいやすくしてください」

  • 「知らされていないことは体験させてください」

支援者は、本人のペースに合わせ、分かりやすい情報提供と「ノー」と言える環境を整えることが基本原則となります。

(2)支援の3つのプロセス

意思決定支援は、以下の3ステップで構造化されました。

【意思形成支援】
豊かな体験・経験の機会を提供し、理解しやすい方法で丁寧に説明・情報提供する

【意思表明支援】
本人が安心・安全に気持ちや選択を表現できるよう、環境や関係性を整える

【意思実現支援】
表明された意思や選好を、サービス等利用計画・個別支援計画に反映し、ともに伴走する

3. 実践で直面する「困難な場面」への向き合い方

現場では「本人の意思を尊重したいが、危険が生じる」「重度の障害があり意思確認が難しい」といった課題に直面します。第2版(案)では、こうした事例が「コラム」として整理されています。

重大な影響や他者への権利侵害がある場合

本人の意思をそのまま実現すると生命・身体に重大な影響が生じる場合や、他者の権利を侵害する場合は、「本人の保護・他者の権利擁護」という例外的な観点からの対応が求められます。

ただし、これは障害の有無に関わらず適用されるものであり、「障害があるから制限する」ものではありません。制限が必要な場合でも、可能な限り本人の意思や選好を活かせる余地がないかを検討し続けることが重要です。

応答や反応を得ることが難しい場合

遷延性意識障害や重度の障害などにより明確な意思確認が困難な場合でも、「意思がない」と判断してはなりません。これまでの生活史や行動の蓄積、表情の変化などから、関係者が集まって「意思と選好に基づく最善の解釈」を試み続ける姿勢が求められます。

4. 支援現場・事業所に求められる取り組み

今回の改訂を単なるルールの変更にとどめず、質の高い支援へつなげるためには、事業所内の体制構築が不可欠です。

  • 意思決定支援計画とプロセスの明確化

    意思決定支援責任者を中心として、本人参加のもとで「意思決定支援会議」を開催します。その結果を個別支援計画(意思決定支援計画)へ反映し、モニタリングと見直しを継続します。

  • 合理的配慮と情報アクセシビリティの確保

    視覚・聴覚・知的障害など、障害特性に応じた意思疎通の環境整備を進めます。単に言葉で説明するだけでなく、体験の機会を作ることが効果的です。

  • ICTの活用と根拠の記録

    本人の表情、感情、行動の変化などを継続的に記録・共有することが「最善の解釈」の重要な根拠となります。クラウドツールや写真・動画などのICTを活用し、多職種間で効率的に情報を共有する仕組みを構築しましょう。

意思決定支援とは、単に「決定の瞬間」をサポートすることではありません。迷ったり撤回したりする過程も含め、本人が自分らしい生活を送れるよう「状態」を支え続けるアプローチです。

新ガイドラインの考え方をチーム全体で共有し、日々のカンファレンスや研修を通じて事例検討を重ねていくことが、事業所の信頼性と支援の質を高める鍵となります。

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